動的ボルツマンマシン(英語:Dynamic Boltzmann Machin)とは、ニューラルネットワークを更に進化させると期待されている新しい技術です。

神経回路を参考につくられたニューラルネットワーク。「AlphaGo」で有名になったディープラーニング(深層学習)

ニューラルネットワークは、人間の脳細胞であるニューロンを参考に、より人に近い学習方法を可能にした技術で一時期停滞しつつあったAIに革命的な進化をもたらした技術です。ニューラルネットワークは神経回路網。そのニューラルネットワークを多層化することでより複雑な処理を可能にしたのがプロ棋士を次々と撃破していった「AlphaGo」で有名になったディープラーニング(深層学習)です。

動的ボルツマンマシンはさらにその進化の速度を進めるべく、生物の神経細胞が学習を行う過程に着目した技術です。生物とひとくくりにしましたが、特に人間の脳の中の「記憶」に関する仕組みに着目した技術なのが動的ボルツマンマシンです。

動的ボルツマンマシンを理解する上では「ヘブ則(英語名:Hebb’s rule)」をといったキーワードが必ずでてきますので簡単にご紹介しておきます。

ヘブ則(英語:Hebb’s rule)とは

「ヘブ則(英語:Hebb’s rule)(同義語:ヘブの学習則、Hebb’s postulate)」は1949年にカナダの心理学者ドナルド・ヘッブによって提唱された概念で、記憶を担う細胞は集合体で、細胞集合体の中で2つの神経細胞が同時に刺激をうけるとより強く記憶されるということを発見し概念化したものです。

噛み砕いて言うと、ただ茫然と何かを見ていても私達の記憶に残ることはあまりありませんが、そこにもう一つの出来事が同時におこると“強い記憶”として私達の脳の中に記録されます。「あぁここのお店の料理はおいしい」とか、「ここで何年か前に事故が起こったのを見た」と“場所”と“料理や事故”といったふたつ出来事が結びつくと人は強く記憶に残るということです。

普段何気なく行われている私達の行動ひとつひとつを改めて言葉にしてみると、たしかにその通り、納得させられることが数多くあります。

動的ボルツマンマシンは、学習の過程おいて、ヘブ則の性質があることを踏まえ、さらに「スパイク時間依存可塑性(STDP:Spike Timing Dependent Plasticity)」と呼ばれる現象の考え方を取り入れています。

スパイク時間依存可塑性(STDP:Spike Timing Dependent Plasticity)とは

スパイク時間依存可塑性(STDP:Spike Timing Dependent Plasticity)とは、生物が情報処理を担う神経回路において観察される現象で、前述したヘブ則における現象で、神経細胞間の結合強度の変化量が2つの神経細胞の発火する「時間差」に依存するという現象です。

情報処理を行う神経回路は、ニューロンがシナプスと呼ばれる構造を介して結合したネットワークであり、ニューロンからニューロンへ情報伝達を行うことにより情報が処理されるのですが、ニューロンの出力の際に起きる現象が電位のパルスの発火(スパイクという)であり、このニューロンの情報伝達の効率のことをシナプスの結合強度と呼びます。

動的ボルツマンマシン(Dynamic Boltzmann Machin)とは

つまり、動的ボルツマンマシンとは、経過する時間と起こる現象を数値化した「時系列データ」をもとにより具体的な予測や異常検知を実現する人工知能になりうる技術です。

時系列と聞くと、ついつい「時系列DB」であるInfluxDBやTimescaleDBを思い浮かべてしまいますが(;^ω^)

動的ボルツマンマシンという技術によって、データの学習の繰り返しによるアウトプットではなく、刻々と変化する時間の流れ上で起こるデータの変化を根拠とした予測や異常の検知を行うことができるようになると期待されています。

先日ご紹介した「Google Fit on Pixel スマホアプリとカメラだけで心拍数と呼吸数測定が可能に」の中で登場するGoogle Fit on Pixelで計測できる心拍数や呼吸数、体温、血圧などもすべて時系列データとして捉えることができまし、また、株価、気温、気圧、水温などのデータも同じく時系列データとして扱うことができますので、動的ボルツマンマシンの技術研究が進めば、現段階よりも飛躍的に正確な予測や検知が実現するかもしれません。

IBM東京の基礎研究所が「動的ボルツマンマシン(DyBM)と関連ツール」をgithubで公開しています。